ここ数年間に渡り、導入への検討や試験運用を続けてきた二輪車ETC。やっと今年に入り本格的な運用の兆しが見えてきた。ハイウェイカードが利用中止となり、バイクも含めETCを搭載していない車両のユーザーは、今まで通りの恩恵を受けることができなくなってしまった。こうしたことからも、早期の利用開始を望んでいたユーザーも少なくない。今回は、二輪車ETCモニターに選ばれた筆者のレポートを交え、これまでの経緯や問題点を見ていく。
いよいよ二輪車ETCの実用化が目前に迫ってきた。去る3月23日に国土交通省が発表したところによると、今年の秋から全国で使えるようになるとのこと。現在は、首都圏や近畿圏などでモニターによる試験運用中で、安全性や車載機の動作などを確認しているところだ。車載機の市販化が秋をめどにスタートすることに合わせて、本格的な導入となるようだ。
一般モニター募集までの概略
周知の通り、現在のETCシステムでは二輪車は対象外であり、バイクユーザーからはETCも含めた新たな料金支払い方法の開発を望む声が上がっていた。そこで、バイクユーザーの利便性の向上、クルマも含めた渋滞緩和効果、様々な料金施策の適用性の拡充などの観点から、国土交通省及び東日本高速道路株式会社等の関係機関は課題を検討してきた。
バイクユーザーの利便性の向上については、バイクの料金支払いは、停止し、手袋を外ししてから小銭やハイウェイカードを出すといった流れで、クルマでの支払いよりも時間がかかり、また面倒でもあり、ETCがバイクにも対応すれば、利便性は格段に向上する。
渋滞緩和効果については、前述の通りクルマよりも支払い時間がかかってしまうことから、料金所での渋滞の要因の一つにもなっており、これをクリアすることで渋滞緩和を期待できる。
新たな料金施策の実施については、現在の時間帯割引など各種の割引制度やマイレージサービスなど、今後も拡大しつつあるETCを活用した新たなサービスをバイクユーザーも利用できるようにする。
こうした内容を考慮し、まずは、現行のETCを利用したノンストップ方式と、非接触型ICカードを利用したタッチ・アンド・ゴー方式でのテストを実施。平成17年4月には首都圏でプロライダーによるモニター走行をスタートさせた。そして、半年後の同年11月、一般ライダーによるモニターの募集がスタートした。筆者もこの機会を逃すべくエントリーしてみたので、以下でその様子を述べていく。
申し込みから取り付けまで
インターネット上のニュースを見て、二輪車ETCの一般モニター募集がスタートしていることに気付いたのは11月2日。5000台限定とのことで、すでに1~2日経過しているためもう間に合わないかと思いつつも、とりあえずエントリー。エントリーは(財)道路新産業開発機構のホームページ内にある「自動二輪車ノンストップ自動料金支払システム試行運用」(http://www.mlit.go.jp/road/)から行った。募集にはもちろん条件があり(詳しくは上記を参照)、「東京・神奈川・千葉・埼玉に在住」、「バッテリーレス車両は取り付けできない」、「月2回以上対象料金所を通過」など、筆者は辛うじてクリアしていた。
翌日の11月3日には一般モニターの募集が停止された。2~3日間で5000人以上の応募があったということは、それだけ関心が高かったと言える。しかし、事前に周知されていたかというと疑問符が付く。常に業界情報にアンテナを張っている筆者でさえも「たまたま」ネット上のニュースで気付いたので、おそらく他の応募者も同様だったのではないだろうか。
11月12日、「モニター仮登録完了」のメールが届く。HP上でのエントリー後、それまで何の反応もなかったので、二輪車ETCモニター窓口から初の連絡となる。内容はモニターIDとパスワード、本登録までの手続きの流れだ。
理解度確認試験の受験
合格後、確認書、車検証、免許証の送付
モニター登録完了
車載器取り付け
モニター走行実施
この時点で理解度確認試験の準備はできておらず、整い次第メールにて連絡が来るとのことだった。
12月3日、理解度確認試験の準備ができたというメールが届く。この試験はホームページ上で行えるようになっており、モニターIDとパスワードでログインし、早速受験する。一度目はマニュアルをよく読まずに受験したため不合格。何度でも受験できるため、今度はマニュアルを手元に置いた状態で受験し、無事合格した。
その後しばらく連絡がなく、クリスマスイブの12月24日、書類と、腕章、カードサイズのモニター証明書が郵送されてきた。週明けの26日に確認書、車検証、免許証を返送する。同封の腕章とモニター証明書は、モニター走行する際に着用、携帯しなければならないとのことだった。
年明けの2月5日、二輪車ETCモニター窓口から本登録完了のメールが届く。実は、この前日に取り付け店舗から直接連絡が入っていた。後日、一度車両を見た上で取り付け方法・場所を確認することになった。取り付け店舗は自宅から約12km離れた隣の市のBDS会員店でもあるスナガ輪業。モニター側から店舗指定できないため、遠くでは面倒だと思っていたが、比較的近い所だったので安心した。
2月15日、スナガ輪業へ車両を持ち込む。ここで初めてETC車載器を見たのだが、防水・防振対策をしているためか予想以上の大きさである。筆者の車両はアフリカツインでシート下にもスペースがあるのだが、ここにカードを挿し込む本体を設置することは不可能なことが判明した。正確には、取り付けできないことはないのだが、バッテリーボックスのフタが開けられなくなってしまい、整備性が悪くなってしまうのだ。
車載器本体は「鍵のかかる場所」への設置が義務付けられており、必然的にハードケース(リアボックス)の使用が不可欠となってしまった。(財)道路新産業開発機構でハードケースがオプション設定されていたが、これはあくまでも二輪車ETC車載器のためだけのものと言わざるを得ないようなものだったため、社外のリアボックスを購入することにした。この代金約2万5000円は自己負担となる。他の荷物も入り、仕事やツーリングにも使えるが、この出費は大きな負担となった。
2月28日、リアボックスを取り付け、再度スナガ輪業へ車両を持ち込む。夕方には作業が終わり、車両と取りに行くと、ハンドル部に設置された大きなアンテナ部が目に飛び込んできた。車載器本体と同様、こちらもかなりの大きさで、ライディングには支障なさそうだが、目障りな感じは否めなかった。実際の作業についてスナガ輪業に聞いてみた。
「作業はそれほど難しいものではありません。この他に、当店ではビッグスクーターとPC800に取り付けましたが、こうした車両はカウル内へ配線を回さなくてはいけないので、その分手間はかかりましたね」
いよいよモニター走行体験
こうして、モニターに応募して約4ヶ月経過し、やっとバイクでのETC走行を体験することができた。その感想は、実にあっけないもので、クルマのETC走行に慣れているせいか、特に感動というものはなかった。便利なことは確かで、料金所で停止し、グローブを外し、バッグやポケットからカードや現金を出し、再度グローブをはめてスタート、という一連の流れがなくなったのは気分が良い。しかし、この裏には様々な制約や不便さも見えてきた。
まず、これはモニター走行マニュアルでもわかっていたことだが、モニター走行できる高速道路と料金所が限られているため、カードの抜き差しが必要になること。筆者の場合、東北道から首都高を利用し東京都内や横浜方面へと行くことが多いが、現状では東北道での利用は不可となっているので、東北道の入口で通行券を取り、出口である浦和の料金所では通行券とETCカードを提出して清算する。つまり、今までと変わらないのだ。
ETC走行ができるのは、この後の首都高なので、浦和料金所を出たところ、または首都高・川口料金所の直前でバイクを止め、エンジンを停止。キーを抜いてリアボックスを開け、ETCカードを本体に挿入。再度エンジンをスタートし、川口料金所をETCで通過するという流れになる。ETC通行できる部分を見れば、前述の通り便利なのだが、それに至るまでの作業が必要なため、トータルで見れば手間がかかっているほうが多いような気がする。
首都高から東北道へというルートでも同様の作業が必要になり、1回の往復で何度もバイクを停めなければいけない状況なため、秋の本格的導入開始前に、少しでも早く対象区間を延長してもらいたいところだ。シート下に本体を設置したモニターでは、いちいちシートを外さなければならず、筆者以上に不便な思いをしていることだろう。タンデム走行をしている場合はなおさらだ。
現状ではやや進展あり
3月13日の発表で、モニター対象期間が拡大された。(別図参照)それまでは首都高、東京外環道、第三京浜、横浜新道、京葉道路(一部)、中央道(一部)だったのに加え、東名の東京~厚木間が対象になった。関越、東北、常磐に関しては、記事執筆時点で未だ対象となっていない。
さらに、冒頭で述べた今年秋の二輪車ETCの本格的導入を前に、ETCカードのみでの割り引きサービスやマイレージサービスがスタートした。これは、従来ETC車載器を通じた無線通行でのみ適用された割り引きサービスを、ETCカードを料金所で手渡して清算した場合にも適用するというもの。同様に、マイレージサービスの登録にはETCカードの他に車載器も必要だったが、ETCカードのみでの登録が可能となった。すでにクルマで使用しているETCカードがあり、そのカードでマイレージ登録が済んでいれば、そのまま適用される。
首都圏を中心に話を進めてきたが、近畿圏や中部圏でも特定モニターによる二輪車ETC走行がスタートしている。首都圏のような一般モニターの募集はまだだが、順次開始されることだろう。また、首都圏でも「5000人の応募で締め切ったものの、1000人くらいのキャンセルが出ているようです。その分の再募集をするようなので、モニターになりたいユーザーはホームページをマメにチェックしたほうがいいですね」(スナガ輪業)という話も出ている。
こうして着々と実用化に向けて準備が進められているが、車載器の取り付けの問題や、限定された通行レーンなど、問題はいくつかある。行政だけでなく、バイクメーカーやETC車載器の製造メーカーにも関わってくるが、アンケート結果にもあるように、二輪車ETCは「必要である」、モニター終了後も「是非利用したい」と、モニターのほぼ全員がETCの必要性が高いと考えている。さらなるバイクライフの快適さを求めるユーザーのためにも、秋の本格的導入を確実に実現していただきたいものだ。
二輪車ETCモニター応募条件
1.前提条件
●一都三県(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)在住の方に限定。
●試行運用への参加にあたり、クレジット会社等が発行するETCカードの取得が必要(ETCカードを取得していない方は参加できない)。
●違法改造車への車載器の取り付けは行わない。
2.車載器の取り付けについて
●車載器の取り付けが可能なスペースが車内にあることが条件となる。車内に取り付けスペースのある車両の例については別表を参照(バッテリーを持たない車両など一部車両はETC車載器が取り付けできない。また、今回の試行運用ではサイドカーおよびトライクは対象外)。
●車内への取り付けが困難な車種については、「鍵付きのハードケースで着脱が容易に出来ないこと」を条件とし、外付けボックスを利用した取り付けが可能。ただし、ボックス購入費および取り付け費はモニター本人の負担。なお、別途専用ケースを用意しているので、希望者は取り付け店と相談。
●車載器の取り付けおよび取り外しのため、事務局が指定する取り付け店に対象車を持って来ること。取り付け店舗はモニター本人の希望に添うことが出来ない。
●車載器の取り付け時に、配線などの加工をする場合がある。また、車載器を取り外した場合には取り付けの跡が残る場合がある。
●車載器の取り付けについては、取り付け店舗および事務局が指定する方法での取り付けとなる。取り付け方法について、モニター本人の希望に添うことは出来ない。
●応募してから順次取り付けを行う。応募受付後、数ヶ月以上待つことがある。取り付け店が決定次第、事務局よりメールで連絡。
●車載器は登録した車両のみで使用可能。他の車両への載せ替えは出来ない。
●試行運用中は車載器を事務局より貸与。試行運用終了後に特に問題がなければ引き続き利用できる。
●車載器の貸与に関しては、モニター各位が管理責任を負うこととする。
●サイドカーおよびトライクは応募対象外。
●違法改造車についてはモニターとして認められないので、ETC車載器の取り付けは行わない。
3.走行方法の遵守について
●走行マニュアルおよびETC利用規定に従った利用をすること。
●試行運用においては、対象料金所(範囲、料金所のⅠ)を限定。対象とした料金所以外の走行は不可。
●マニュアルに従わない運用を行った場合の事故、トラブルおよびそれにともなう損害についてはモニターの責任。
4.試行運用への協力について
●期間中、対象料金所を一定回数以上通過。(月2回以上)
●試行運用中および運用後にアンケート調査に協力。(インターネット上で実施)
●試行運用の状況を分析するためにモニターの車両番号や通行履歴などの走行明細情報を利用する場合がある。(試行運用の状況分析以外の用途には利用しない)
●料金所通過時に通信エラー等の不具合(カードの挿し忘れ等の人為的なエラーはこれに含まれない)があった際には速やかにモニター窓口に連絡。
●その他事務局が指示する事項を遵守。
(以下、省略。内容は一部加筆しています。)
実録 二輪車ETCモニター応募から実走行まで
2005年11月1日 一般モニターの募集スタート
2005年11月2日 (財)道路新産業開発機構のHPよりエントリー
2005年11月3日 一般モニターの募集停止
2005年11月12日 モニター仮登録完了のメールが届く
2005年12月3日 理解度確認試験スタートのメールが届く。同日受験し、合格
2005年12月24日 書類、腕章、モニター証明書が郵送されてきた
2005年12月26日 必要書類を返送
2006年2月5日 本登録完了のメールが届く
2006年2月6日 取り付け店舗と連絡し、一度車両を見せに行くことに
2006年2月15日 取り付け店舗へ車両を見せに行く。シート下には収められないことが分かり、リアボックスを購入することに。
2006年2月16日 リアボックスを注文
2006年2月18日 注文したリアボックスが届く
2006年2月28日 再度取り付け店舗へ行き、ETC本体を装着
2006年3月7日 二輪車ETCでの初走行
※これはあくまでも筆者の例です